NEXT to Focus #7|質感の高さは特筆もの、プジョー308

このブログは自動車評論家ではない筆者が、フォード・フォーカスの次に乗りたいと検討した車を乗り味、デザイン、使い勝手、そして所有感が持てそうなことに焦点を当てた超主観的な試乗記である。
判断基準とするフォード・フォーカスは2013年製。
7代目フォルクスワーゲン・ゴルフが登場する前年の2011年から販売され、2012年上半期には、単一車種として世界で一番売れたグローバルカーである。
但し、この車を日本国内で見かけることはほとんどない。

今回はゴルフを超えたとの声もあるプジョー308だ。

新しいプジョー顔がちょうどいい

プジョーの新型308は2022年の4月から日本での販売が始まったものの、実際に地方のディーラーでの試乗ができたのは8月下旬になってからだった。
筆者的はガソリンのGTグレード狙いなのだが、残念ながら日本では下位グレードのAllureのみとなるようだ。
ガソリンのAllureが約340万円、ディーゼルのGTが約430万円、プラグインハイブリッドのGTが約530万円。
プラグインハイブリッドには補助金が出たり、減税もあるので、地域によってはディーゼルを下回る価格で購入できる。
308は自宅ガレージで充電ができればプラグインハイブリッド、できなければディーゼルで、どちらも実質400万円後半で購入できる車と言うことか。
そう考えると、100万円以上も安く手に入るガソリンのAllureグレードは、予算的に厳しいと考えるユーザにとって存在価値がありそうだが、GTグレードになるとプラグインハイブリッドとの実質の価格差がなさ過ぎて魅力がないと判断されたのかも知れない。
今回の試乗車はディーゼル。
先代の308の一番人気がディーゼルだったこともあり、ディーラーとしては既存顧客の買い替え狙いなのだろうが、新規顧客も含め戸建ての多い地方なら魅力のあるのはプラグインハイブリッドだと思うのだが、半導体不足もあってかプラグインハイブリッドの出荷は始まっていないようだ。

印象的なフロントグリルは2008の時はやり過ぎ感があったのだが、308ではおとなしくも感じられる。
恐らくフロントグリルの位置が低いのと、実車を見る場合、写真よりも斜め上から見るようになるからだとは思われる。
そんなこともあってか、プジョー顔の並ぶディーラーの駐車場での308の第一印象は、思っていたよりもコンパクト。
SUV主流の時代、このぐらいの派手さがおしゃれさを出すにはちょうどいいのかも知れない。
また2008よりも大人しい印象は、オーソドックスなふくらみを持たせたボディー側面からも感じ取れる。
この車は写真ではなく、街中で見かけて好印象を持つ人が出そうだ。

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乗り込んだ瞬間に・・・

ちょっと高級感もある308は、乗り込んでドアを閉めると再認識される。
実に上品でしっかりとしたドアクローズ音の後、外の音がかき消され遮音性の高さと、車内の吸音が良くされていることが分かる。
この車の車幅は、ちょっと大きめのSUV並みの1850mmもある。
大き目の車幅は、ハッチバック車としては高めの全高1475mmに対してバランスが取れている。
幅も高さも他のCセグメント・ハッチバック車に比べ一回り以上大きいので、運転席や助手席に乗り込むと広々とした車内空間を実感できる。
プジョーのアルカンターラ素材のシートは、実に座り心地とフィット感のある素晴らしいシートだ。
少なくとも運転席や助手席にいる限り、この車がゴルフなどと同じCセグメント車とは思えないほどのゆったり感があるし、とても400万円とは思えないラグジュアリー感もある。

勿論、目を凝らしてみれば随所に見られるプラスチック素材ではあるが、洗練された造形にダマされてしまうのだ。
エアコンの吹き出し口より下に配置された10インチのインフォメーションディスプレイは、大型のボタンを備えることで更に大きく感じる。
正直、運転中に見るには低く過ぎる位置にあるディスプレイだが、デザイン的にはベストポジションのように思える。
運転中の視界に入らないので、カーナビの地図表示をヘッドアップディスプレイで表示できればと思うが、プジョーの場合はi-Cockpit内での表示だ。
そうなるとインフォメーションディスプレイなるものは本当に車に必要なのか疑問が生じる。
滅多に操作をしない諸設定などは、Bluetoothなどでリンクさせたスマホ画面で十分だろうし、エアコンなどの操作は物理スイッチの方が良いに決まっている。
と言うわけで、筆者的にはインフォメーションディスプレイに対する付加価値はゼロなので、一切、評価はしないことにしたいが、Allureの物理ボタンに対してGTのタッチスイッチの方が見た目だけは優れているとは思う(ディスプレイなしの方がより良いのだが)。

そんな高級感の漂う308なのだが、不満もない訳ではない。
まず、本国仕様ではFocalのハイグレード・オーディオが選べるのだが、日本では選べないばかりか、インフォメーションディスプレイが外せない為に、標準以外のオーディオシステムに変更することも容易ではない。
そして標準のオーディオが、どうしようもなくチープな音なのである。
日本における308のオーディオシステムの改善は、せいぜいスピーカーの交換と、デッドニングに限られそうだ。
そして、もう一つはドライバーの体格によってではあるが、後席のレッグスペースに余裕がない点だ。
座り心地とフィット感が素晴らしいフロント側の電動シートはかなり厚みがあって、筆者のドライビングポジションまで座面を下げてしまうと、後席の人のつま先がシート下に入れられなくなる。
筆者の場合、308の後席のレックスペースは20cmほどしか確保できない為、前席のシート下につま先が入らない後席には、靴のサイズが20cmまでの小さな子どもしか座れないのだ。
筆者が座っても十分なサイズのリアシートなのに、レッグスペースが全く足りないアンバランスなシートレイアウト、この車は身長175cm程度の人でないと快適でないのかもしれない(小柄過ぎるドライバーもi-Cockpitがステアリングに隠れてしまい不適だ)。
せめてホイールベースを延ばしたSW(ワゴン)でレッグスペースを拡大して欲しいものだが、フランス人にはそのような発想はないらしく、カーゴスペースの拡大に全振りされている。
ファブリックシートのAllureだったらつま先が入るのか、こればかりは実車がないので分からないし、アルカンターラシートのGTに惚れた筆者には、まだ見ぬ408に期待を寄せてしまうのだった。

今の車、どこで売る?

しっかり試乗して見えてきた弱点は

さて、308GT(ディーゼル)を試乗した感想を書こう。
1.5リッターのディーゼル・ターボと8速ATの組み合わせは、以前試乗したシトロエン・C4と同じだ。
アイドリング時に聞こえるディーゼル・エンジン音は、C4でも十分小さかったが、遮音性の高い308では全く気にならない。
8速ATも、相変わらずDCT(DSG)風の直結感のある走り出しで、筆者的には好みである。
一方、プジョー・2008やC4で感じたボディーの妙な硬さがなくなり、路面の細かな凹凸でバタつくようなことのない上質な乗り味になっている。

ところで308は車幅が1850mmもあるのだが、実際に街中を走らせてみると、特に車幅が大きく取り回しで苦労すると言うことがなかった。
実は308のドアミラーを含めた最大幅は2062mmで、この数値、例えばプリウスの2085mm、シビックの2080mm、ゴルフの2073mmよりもわずかに小さいことを後から知った。
ちなみに、シビック タイプRはノーマルの車幅1800mmに対して1890mmもあるが、ドアミラーを含めた最大幅は2080mmと変わらないことも分かった。へぇーーー。
と言うわけでミラーを含めた車幅を調べてみると、C、Dセグメントに属する車の大半が2000から2100mmの範囲にあり、カタログ上のミラーを含まない車幅で、取り回しの良し悪しは判断できないと実感した。
幅寄せ駐車場の幅が狭く、最近の車幅1700mm超えの車を諦めている人も、ドアミラーを閉じた状態でのミラーを含めた車幅で探すと、意外な車種が見つかるのではと思われる。
但し、ミラーを含めた車幅はカタログには記載されていないケースが大半なのと、一覧表のようなものはないので、車幅を気にせずに車種を絞り込んで、後はWebサイトのQ&Aで探したり、直接メーカーに問合せするしかない。

プジョーの小径ハンドルは308でも同様だ。
山道によくあるタイトなコーナーでは、軽めでクイックなレスポンスの小径ハンドルは、ドライバーの技量を試される。
それを楽しいと取るか、取れないかで、この車への魅力が変わってきそうだ。
コーナリングに関しては、筆者の愛車、フォード・フォーカスの紹介で述べたように、308はフォーカスとは真逆のフォルクスワーゲン・ゴルフに近いのかも知れない。
いや、ゴルフ以上にドライバーの技量がないと、タイトなコーナーを攻めた走りは難しいと思われる。
別に308でラリーをする訳ではないので、山道などのんびりと走っても良いのかも知れないが、田舎の山道では時に4WDの軽トラが爆走していて、同じペースで走ってみたくもなるものである。
そう言う筆者にとって308は、もう歳なのだからスピード出さずにのんびり走ってはと提案されているようで、受け入れるか、受け入れないか、迷うところだ。
発想を転換すれば、他車と競わず、そこそこのスピードで攻めた走りを楽しめるのが308なのだ。
これって車自体の性能としてはどうかとも思うが、爆走もせずに、爆走を楽しめるのだから、一般道しか走らない普通の人には最適なようにも思えてきた。
問題は、攻めた走りもせずに爆走する軽トラに追いつく快感を知ってしまった筆者にある。
まさにフォーカス沼だ。

さて、308の試乗では、2度ほどヒヤッとした場面があった。
1度目は、路面の荒れたタイトな下り坂のコーナーで一度だけ車体が弾むことがあった。
308はカックンと言う程ではないが、結構クイックなブレーキなので、何とか軌道修正はできたものの、この車で攻めた走りはほどほどにしておいた方が良さそうと思った瞬間だった。
稀に車体が弾む症状だが、これが前後の重量バランスの悪いディーゼル車だからなのか、PHEVのような重量級に合わせ込まれたボディー剛性によるものなのか、少なくともディーゼル車の出来はイマイチと言える。

i-Cockpitの小径ハンドル

もう一度のヒヤリは、片側2車線道路でのUターン時だ。
筆者には、このような大回りの際に逆手でハンドル上部を握るクセがある。
308のハンドルは小径なだけでなく、上下がつぶれた形状になっている。
恐らくi-Cockpitのディスプレイがハンドルで隠れないようにカットしたのと思われるが、この影響でハンドル内径で特に上の部分は、手は入るものの平べったい穴になっていて、手を途中で裏返すことは困難だ。
筆者はいつものように手のひらを上にしてハンドル上部を握ってUターンをした。
そしてハンドルを回し始めた途中で順手に変えて握り返そうとしたのだが、手がハンドルに挟まってしまい抜けなくなったのだ。
理由は308のハンドルの半月型の穴形状と、筆者の手の大きさにあると思われる。
詳しく説明しよう。
まず筆者は12時の位置で左手を逆手にしてハンドルを握って、時計回りにハンドルをきった。
大体90°ぐらい切ったところで、今度は12時の位置を右手を順手でハンドルを握り、ハンドルをきり続けた。
この時、左手は握りを弱めて、逆手のまま反時計回りに握り位置をずらしていった。
ハンドルが時計回りに180°ぐらいきれると、右手は3時の位置、左手は9時の位置になるのだが、その少し前に左手を順手に握り直すのが筆者の癖である。
この後、更にハンドルを時計回りにきってUターンしたら、両手の握りを緩めて行けば、ハンドルは反時計回りに回って直進まで戻ることになる。
今回は逆手の左手が半月型の穴の右端に挟まってしまったので、直進に戻るまでのハンドルが反時計回りをしている間は手を抜くことができなかったのだ。
半月型の穴の端は正面から見るとそれ程狭くはないのだが、逆手で斜め方向から握ってしまうと、エアバックの張り出しが手の甲に当たり抜けなくなる。
小径過ぎるハンドルは、i-Cockpitに固執するプジョー車の欠点のひとつだ。
i-Cockpitはドライビングポジションの範囲を狭める結果にもなっている。
i-Cockpitを捨てないなら、せめてステア・バイ・ワイヤーを採用して、舵角度の小さい非リング形状(蝶々型)のハンドルにして、これらの欠点を解消して欲しい。

いい車なのだが、筆者にはイマイチ

308は身長175cm程度までのドライバーであれば、後席に座れないと言うこともないだろう。
肉厚のドアを閉めた時の静寂さは、誰もが400万円で買えるフツウの車だとは思わないだろう。
大型のセンターディスプレイを配したダッシュボードの造形も、素材が何であるかなど確かめなければ十分美しい。
乗り味だって2008のようなBセグメント車にあったバタつき感はほとんどなく、ちょっとスポーティーなコツコツ感も、柔らかいのに体をしっかりとサポートしてくれる絶妙なシートのおかげで不快感など微塵もない。
1850mmの車幅も、ドアミラーを含めればプリウスやシビックよりも狭いので、全く気にする必要はない。
いい車だと思う。
ただ、フォーカスの走りに慣れている筆者には、山道で地元のドライバーが超絶テクニックを駆使して爆走する車を、鼻歌交じりで追走する快感がどうしても捨てられないのだ。
筆者の後ろに小さな子供しか乗せられない308の狭さも受け入れがたい。
逆手ハンドル厳禁なのは許そう。
308のプラットフォームをストレッチした408やシトロエン・C5Xに期待と不安を持ちながら、プジョーの営業担当に「この車はさすがに買いません」と言って帰途についた。

遂に日本上陸した408は価格設定に不満

筆者は正直なところ308の走りを受け入れるとしたら、後は後席の狭さが解消されるだけで十分と思っている。
308の魅力は何と言ってもコスパの良さだ。
そんなこんなで試乗から10ケ月も経とうとする頃、408の日本での販売が始まり、価格と共に、車両レビューなどから詳細が分かってきた。

プジョー・408

まず、408は308から多くのパーツを流用し、ホイールベース長は308SWより約50mm長く、後席のレッグスペースが実用的なレベルになったようだが、天井高が低くなったようで、どうも頭上に余裕がないらしく、相変わらず後席に大人を座らせる発想がないのかも知れない。
そして筆者を落胆させたのは価格だ。
308にはなかったガソリンのGTグレードが499万円で、仮に308に同一グレードがあったとしたら100万円以上も高いので、コスパ的な魅力は完全に失せてしまっている。
更にPHEVになると130万円も高い629万円もする。
冷静になって周りを見渡せば、500万円越えだったら408並みの車はいくらでもある。
更に付け加えるなら兄弟車であるシトロエン・C5XのPHEVは660万円だが、ほぼ同一仕様の408ファーストエディションは669万円もするが、408には電子サスやシートベンチレーションまでは付かない。
いかにプジョーの408に対する価格設定が高すぎるか分かると思う。
突出した乗り味のない308のストレッチ版408には、それ相応の価格設定をして欲しかった。

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